診療内容・特徴
不整脈診療は日々進歩しています。以前は根治が不可能であった数々の不整脈が、数時間のカテーテル治療で根治に至ることもあります。
ペースメーカや植え込み型除細動器の進歩も目覚ましく、さまざまな機能の向上や電池寿命の延長で、患者さまの生命予後の改善ならびにQOL(生活の質)を最大限に保って治療ができるようになりました。
当科では、あらゆる不整脈の治療を最新の知見を元に最先端の医療機器を用いて有効かつ安全に行えるようにチームで診療を行っています。日本で使用可能なほとんどの治療法は当院で施行可能で、それぞれの患者様の疾患や病状に最適な治療法を選択できるのが当院の不整脈診療の特色です。
主な対象疾患例
心房細動
心房細動は、心房が1分間に500拍以上で興奮し、けいれん状態となってしまう不整脈です。動悸症状や息切れ・倦怠感といった症状が出ることがあります。けいれん状態の心房内や心耳内では血栓が形成されやすくなり、脳梗塞(心原性脳塞栓症)の原因となることがありますので、リスクに応じて抗凝固療法を行います。また心房と心室の連携がなくなってしまうため、心機能が低下し、心不全の原因にもなります。その他、将来的な認知機能低下との関連も過去の研究で示唆されています。
発作性上室性頻拍
症状の特徴は、突然開始して、突然元に戻る規則正しい動悸発作です。小児期から発症することもあれば、壮年期以降に初めての発作がでる患者様もいらっしゃいます。WPW 症候群が原因で起こる不整脈発作もこれに分類されます。発作中は心拍数が200拍を超えることもあります。心臓を収縮させる興奮波が旋回する回路が形成されることで起こる不整脈で、アブレーションによる回路の離断で根治にいたります。1泊2日の入院、1時間から1時間半程度のカテーテル治療で高い根治率が期待できます。
心房粗動・心房頻拍
心房粗動は、右心房と右心室の間に存在する、三尖弁の心房側を興奮波が旋回することで起こります。脈は規則正しいことも乱れて感じることもあります。心房細動同様に脳梗塞や心不全の原因になることがあります。心房粗動のみのカテーテルアブレーション治療なら30分から1時間程度で行えますが、治療後に心房細動があらたに診断される患者様がいるため、治療後も外来での観察が必要です。心房頻拍の治療は、3Dマッピングシステムを駆使しながら回路の同定・治療を実施していきます。
上室性/ 心室性期外収縮
多くの患者さまで脈がとぶ、胸の違和感といった症状を呈しますが、無症状の患者様もいらっしゃいます。無症状で頻度が少ない場合は無治療でも問題ありませんが、頻度が多い場合や症状が強い場合は、カテーテルアブレーションで治療の対象となります。
心室頻拍
心室内から発生する異常な興奮波が原因で、心筋梗塞や心筋症などの原疾患によっておこるものと、原疾患がない元気な心臓に起こる特発性の、2つに分けられます。特発性の場合はカテーテルアブレーションのみで治療可能ですが、原疾患を有し、心機能が低い患者様の場合は心臓突然死の原因となりうるため、植え込み型除細動器とカテーテルアブレーション、薬物療法を組み合わせて治療する必要があります。
心室細動
心室内から出現する異常興奮が心室を痙攣させる最も危険な不整脈です。心臓突然死の原因となります。心筋梗塞や心筋症などの原疾患を有する場合が多いですが、Brugada症候群や特発性心室細動など、心室細動だけが生じる病気もあります。心室細動の治療は突然死の予防の為植え込み型除細動器となりますが、Brugada症候群で心室細動を繰り返す場合や、心筋梗塞急性期に心室細動が頻回に出現する場合など、カテーテルアブレーションが行われることもあります。
経皮的カテーテル心筋焼灼術(カテーテルアブレーション)
当院カテーテルアブレーション治療の特徴
全国トップレベルの症例数
当院は全国有数のアブレーション症例数を誇り、毎年1000例を超える症例数を維持しております。

安全な手技
アブレーション治療に伴う重大合併症は現在の治療法では減少傾向にあり、安全に治療可能となっています。2022~2025年の当院のアブレーション治療では、心タンポナーデ(心膜液貯留含む)は0.2%、周術期脳梗塞0.04%、外科的修復を要する合併症は0.02%と低い合併症率で治療を行なっています。2024年から始まったパルスフィールドアブレーションにより食道関連合併症や肺静脈狭窄は劇的に減少しました。
治療成績
これまでの当院での治療成績は、発作性心房細動の場合、1年以内の再発率は9%、5年の再発率は20%と良い成績を維持しています。慢性心房細動になってしまった場合、慢性化してからの期間や、心エコーでの心房の大きさで再発率が変わってきます。検診などで発見された場合、多くは持続期間1年程度ですので、この時期に治療を受けていただくと、発作性心房細動とほぼ同程度の治療効果を期待できます。ただ持続期間が長くなると、再発率が徐々に上がってしまいます。持続期間が長い方でもメリットが得られるケースはあり、患者様と相談しながら治療方針を決めさせていただきます。
最新の治療設備
最新治療機器を用いて、安全性と有効性を両立し、常に最新の治療を患者さまに提供しています。特に心房細動でのパルスフィールドアブレーションは本邦で最も早期から導入した施設の1つであり、日本の不整脈治療をリードすべく日々診療を行なっております。
低侵襲治療
3D mapping systemなどを用いてX線透視を可能な限り削減しています。不整脈の種類にもよりますが、鎮静下でアブレーション治療を行い、極力痛みのない治療を心がけています。アブレーション前の経食道心エコーは心内血栓評価を行う検査ですが、心臓CTなどを用いて可能な限り代用しています。術前後の尿管カテーテル挿入しないことや、術後の安静時間を可能な限り短くするといった試みをしています。
短期間入院
心房細動では術後2日、その他不整脈では術翌日の退院を基本としています。ご希望の患者さまには心房細動アブレーションは最短1泊、発作性上室性頻拍や心房粗動のアブレーションは日帰りのアブレーションも検討可能です。ご希望のある方は、外来で相談ください。
心房細動に対するカテーテルアブレーション
心房細動の多くの原因を占める肺静脈は、上下左右4本あり、肺と心臓をつないでいます。上下肺静脈を焼灼することにより心房細動の原因となる肺静脈からの異常な電気信号が左房内に入ることを防ぎ、
肺静脈隔離といいます。肺静脈隔離は心房細動アブレーションで最も重要な治療手技になります。肺静脈隔離の方法にはいくつかの手法があります。高周波カテーテルアブレーション、冷凍バルーンアブレーションなどが以前から多く用いられてきた手法ですが、2024年秋からは日本でパルスフィールドアブレーション(PFA)という手法が用いることが可能となり、現在のアブレーション治療ではほとんどの症例がPFAに置き換わっています。
パルスフィールドアブレーション(PFA)新たなテクノロジー
従来のカテーテルアブレーション治療は、不整脈の原因となっている心筋細胞を高周波通電や冷凍といった熱エネルギーを用いて細胞死させることで治療を行っています。 パルスフィールドアブレーションは新たなカテーテルアブレーションの方法であり、ターゲットとなる心筋組織に対して短時間パルスで高電圧をかけることでパルス電場を発生させ、細胞膜表面に不可逆的な穿孔を生じさせ細胞死を引き起こします。
パルスフィールドアブレーションの原理
Heart Rhythm. 2019;16(7):1112-1120. より引用改変
心筋細胞は神経細胞や平滑筋細胞と比較してより少ないエネルギーで細胞死をきたすことが知られており、印加するエネルギーを調整することで、従来の熱エネルギーで課題となっていた食道障害/迷走神経障害や横隔神経麻痺など心臓と隣接する臓器への損傷を抑え、合併症率の低下が期待されています。
パルスフィールドアブレーションの組織選択性
当院では、心房細動に対するパルスフィールドアブレーションをいち早く導入し、2024年9月から開始しております。現在、多くの医療機器メーカーがこの新しいエネルギーを用いたカテーテルアブレーションデバイスを開発しており、当院では下記システムが利用可能です。患者さまの状態やカテーテルの特徴に合わせて最適な治療方針を選択しております。
その他にも患者様の不整脈に応じた治療機器の選択を行なっています。
小児の患者様のカテーテルアブレーション
当院は、埼玉県立小児医療センターと併設となり、小児循環器科との連携をしながら多くの小児の患者さまの不整脈治療も行っております。小学校高学年程度の患者様から対応しております。
小児の患者様の場合、放射線被ばくの悪影響を成人の患者様以上に注意する必要があります。当科では、発作性上室性頻拍や心室性期外収縮などのカテーテルアブレーションはエックス線透視をほぼ使わず、場合によっては全く使用することなく、安全に治療を行い、患者様の治療後遠隔期の健康被害が起こらないように留意しております。
ご高齢の患者様のカテーテルアブレーション
以前は、アブレーション治療は高齢の患者様には行われない傾向がありましたが、高齢になってもお元気な患者様が増えたこと、当院では合併症の出現頻度を低く抑えることができ、安全に治療を行えていることから、現在は年齢制限のようなものは設けず治療を行っています。不整脈の症状でお困りの患者様は、是非ご相談ください。
エックス線透視削減の試み
エックス線透視は心臓カテーテル治療に欠かせないものですが、被ばく量によっては患者様、医療従事者の健康被害を引き起こします。治療の有効性、安全性が損なわれない範囲で被ばく量を軽減する必要があります。当院では、3Dマッピングシステムや心腔内エコーなどを有効に用いることで、エックス線使用を大きく削減する、あるいはエックス線を用いずに治療を行い、放射線被ばくを大きく軽減して、安全に治療することに成功しています。
植え込み型心臓電気デバイス(ペースメーカ、植え込み型除細動器)
徐脈性不整脈(ペースメーカ)
洞不全症候群や房室ブロックといった徐脈をきたす疾患は、息切れや立ち眩み、意識消失などの症状を引き起こす他、心不全の原因となることがあります。基本的な治療としてはペースメーカの植え込みが必要になります。近年はより生理的なペーシングを用いていることで心不全発症リスクを減少させるconduction system pacingを積極的に取り入れています。
リードレスペースメーカ
従来からあるペースメーカは電気線(リード)がありますが、電気線(リード)のないリードレスペースメーカが注目されています。カテーテルで留置できるため低侵襲で、見た目の傷がないため、外見上ペースメーカが入っていることが分かりません。当院では初めて本邦でリ―ドレスペースメーカが発売された2017年から積極的にリードレスペースメーカの植え込みを行なってきました。高齢な方が中心というのは変わりませんが、最近では若年の方でも活動度の高い方は将来的なリード温存のためにリードレスペースメーカを植え込むことが増えてきました。また2025年から足(大腿静脈)からではなく首(内頸静脈)からリードレスペースメーカも留置できるようになり、より安全かつ安静時間もほとんどなく治療可能となり、患者様の負担をより小さくする治療を積極的に取り入れています。現在2種類のリードレスペースメーカが使用可能で患者様の病態に合わせて、経静脈ペースメーカ(リードあり)の治療選択も踏まえた検討をさせていただきますので、担当医と相談いただければと思います。
右内頸静脈からリードレスペースメーカ(MicraTM)を留置している様子
植え込み型除細動器(ICD)
当院では致死性不整脈(心室細動、心室頻拍)を起こされた方、またそのリスクが高い方に、植え込み型除細動器の植え込みを積極的に行なっています。
従来からの心臓内にリードを留置する経静脈植え込み型除細動器(TV-ICD)に加えて、若年である方や疾患に応じて、血管外植え込み型除細動器(EV-ICD)・皮下植え込み型除細動器(S-ICD)の治療が可能です。
特に血管外植え込み型除細動器(EV-ICD)は、リードを血管内ではなく胸骨下に留置することで従来のTV-ICDで懸念される血管損傷、血管閉塞、リード損傷といった問題点を回避し、電気ショック前に抗頻拍ペーシングをすることで電気ショックを回避することができる可能性があります。当院では国内でもいち早く導入し、先進的治療を提供しております。
植え込みデバイス抜去
植え込み後のペースメーカや植込み型除細動器に感染を起こした場合や、ペースメーカの電線(リード)が機能不全を起こした場合、また、多数のリードが植え込まれたせいで生じるトラブルなどで、植え込まれたリードならびにデバイスの抜去が必要になることがあります。デバイス抜去術は時に重篤な合併症を引き起こしますが、当院ではハイブリッド手術室で、心臓血管外科と連携しながら、安全に植え込みデバイス抜去術を行っております。
施設認定
- ペースメーカ植え込み術認定施設
- 埋込型除細動器(ICD)移植術認定施設
- 両心室ペースメーカ(CRT-P)移植術認定施設
- 両心室ペーシング機能付き埋込型除細動器(CRT-D)移植術認定施設
- リードレスペースメーカ植え込み及び抜去認定施設
- 経皮的カテーテル心筋冷凍焼灼術(クライオバルーン)認定施設
- パルスフィールドアブレーション(PFA)認定施設
- パワードシースによる経静脈的リード抜去認定施設