さいたま赤十字病院

整形外科

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人工膝関節置換術

手術適応〜まずは専門的かつ正確な診断を!

中高齢者で膝の痛みに悩み医療機関で治療を受ける方は日本全国で100万人以上いると言われています。

そのうち最も多いのが、「変形性膝関節症」という、膝を作っている太ももの骨(大腿骨)とスネの骨(脛骨)の軟骨が、年齢や体重などさまざまな原因ですり減っていく疾患です。 ただし、これ以外にも、「関節リウマチ」、「大腿骨の骨壊死」、「膝の骨折の後の変形」、「半月板損傷」、「鵞足炎」、「痛風」、「偽痛風」、など色々な原因で膝の痛みは生じます。

まず大切なことは、患者さんの痛みの原因が、骨や軟骨が傷んで生じているものなのか、それとも筋力の不足や使い方の問題で筋(すじ)の炎症を生じているものなのか、関節に炎症が生じてしまい、水が貯まって腫れて痛いのか、それらが複合していないか等、それらを専門的かつ正しく診断することから膝の治療は始まるとお考えください。

ここからは変形性膝関節症と診断された場合のお話です。

変形性膝関節症の場合、鎮痛薬の内服、関節注射、ダイエット、筋力強化訓練、あるいは逆に膝の安静や杖の使用など、患者さんにとって必要な保存的治療(手術によらない治療)がまず行われるべきでしょう。そして保存的治療が、残念ながら効果がない場合、手術治療が適応となります。手術治療には、自分の骨を温存する「骨切り術」と、表面の軟骨をインプラントに置き換える「人工関節置換術」に分けられます。

「骨切り術」は、比較的年齢が若く、靭帯もしっかりしており、軟骨の磨り減りが重度でない場合に適応になります。自分の骨を温存して治療できる素晴らしい手術なのですが、逆に結果が良くない例も散見され、施設や術者による成績のぶれがあることもまた事実です。

一方、「人工膝関節置換術」は、年齢や変形の程度を問わず、骨・軟骨由来の痛み・変形に対する切り札として適応となります。成績は前述の骨切り術に比べ極めて安定しており、多くの良好な長期成績が報告されています。

特に高齢者で、変形性膝関節症のために歩行がつらい、長く歩けない、動くたびに痛い、ひどい場合は寝たきりに近い状態となることは決して珍しいことではありません。痛みや変形で、歩容(歩くバランス)が悪くなると、転倒して骨折するリスクも大きくなります。また、動けなくなってきて困るのは、本人だけではありません。介護をする家族などにも大きな負担となってきます。

医療の発展で、平均寿命はかなり延びておりますが、大切なのは高齢となっても、自分のことは自分で出来る能力を維持する健康寿命です。膝の治療を適切に行わなかったため、歩けなくなり介護や施設が必要となり本人も周りも大変な境遇となる例は実は少なくないのです。 そういう意味では人工膝関節の手術は単に痛みを取るばかりでなく、自分を含めた周りの生活にもよい影響をもたらします。自分の足で立って歩き続けたいという方が、適切なタイミングで適切な治療を受けられるよう、当科では医師はもちろんスタッフ一丸となって治療していきます。

手術方法

膝の真ん中に約12〜15センチの切開をつけて、傷んだ軟骨・骨の表面を削って取り除きます。そこに、正常な膝の表面と同じ形をしたインプラントを大腿骨、脛骨に骨専用セメントという接着剤で取り付けます。(下図参照)
通常の変形性膝関節症であれば、切開を入れてから傷を縫い終わるまで約1時間から1時間半で終了します。
麻酔は麻酔科専門医による全身麻酔で行いますので、手術そのものは眠っている間に終わります。
また手術中および手術後の出血に備えて、貧血がない方はあらかじめ自己血を採血して保存しておき手術後に戻す、いわゆる「自己血輸血」を行います。

手術後は、もちろんリハビリテーションが必要です。手術後の体力回復に応じて翌日〜2日目にはリハビリの始まりです。
初めのうちはベッドからの上がり降りも大変ですが、1〜2週間もすれば歩行器で病棟内を、3〜4週もすれば一本杖で歩けるようになります。
一本杖または杖なし歩行がある程度(連続100m程度)可能となれば、退院してよい段階です。
変形性膝関節症は、両膝とも悪くなる人が多い疾患です。
当院では両膝とも悪い人に対しては、肉体的・精神的不安が一度で済むように、両膝同時に手術を行っていますが、片膝の手術の患者さんと両膝の手術の患者さんで入院期間は大きく変わることはありません。
入院期間に影響するのは、むしろ手術前の筋力低下の程度や、人それぞれに異なる痛みの感じ方のほうです。
高齢でリハビリ期間を十分とってから家に帰りたいという方には、手術後しばらくしてからリハビリを専門に行ってくれる病院へ紹介転院することも可能です。

手術の合併症

人工膝関節置換術は基本的に失敗というものがない手術です。
手術して歩けなくなるという事態は、まず心配しなくてよいと思います。
ただし、術前に理解しておくべき合併症はいくつかあります。
人工膝関節置換術で主に生じる可能性がある合併症は以下の通りです。

出血
骨は血液に富んだ組織ですので、骨の切除部分からは必ず多かれ少なかれ出血します。手術中・手術後にある程度貧血が進むため、可能であれば手術前に自己血を、無理であれば他家血を使用します。
感染症
どんな手術でも、まず乗り越える必要があるのは、傷が化膿せずに、しっかりきれいに治ることです。当院ではバイオクリーンルームという無菌の手術室を備えており、人工関節手術はその部屋で行われます。また手術中、術後には抗生物質の予防的投与も行います。
それにも関わらず感染症が疑われる場合は、抗生物質の長期投与や再手術を行うこともゼロではありません。
また入院・手術中は問題なくても、年数を経て身体の別の場所から、(例えば虫歯や扁桃腺などから)細菌が侵入し血液の中を通って人工関節に感染する遅発性感染というものもあります。
深部静脈血栓症・肺塞栓症
近年「エコノミークラス症候群」などで知られる血栓という血の塊による合併症です。大きな血栓が出来、肺に詰まると呼吸困難や生命の危険も起こしかねません。
骨折や人工関節など下肢・骨盤の手術では通常より生じやすいと言われているため、十分な予防が必要です。
当科では、血栓予防に有効であると報告されている、術中・術後の包帯や空気圧迫装置による予防、血栓防止薬に予防、患者さん本人による足関節の自動運動による予防(これが一番重要です)をすべて行うようにしております。
人工膝関節のゆるみ・寿命
人工膝関節手術の長期成績は安定しており、概ね20年で90〜98%程度と報告されています。20年前にこの手術を受けた100人の人の内、何事もない人が90〜98人、逆に、その間に何らかの理由で再手術を受けた割合が2〜10人程度という意味です。
20年前の機種・手術でその成績ですので、医療器械・手術テクニックが発達した現在では、さらに良い成績になると考えられます。
素材は年々優れたものが出てきており、20年どころか30年、40年を期待させるインプラントが出てきています。
当科では長期成績の出ているインプラントを使用しておりますのでご安心ください。

実際の症例

正常の膝関節

関節の隙間は保たれています

変形性膝関節症のレントゲン

関節の隙間はなくなり、骨同士がぶつかっているように見えます

人工膝関節術後のレントゲン

白い部分が金属のインプラントです。金属と骨の間の薄い白い部分が骨セメントです。
金属同士の間にはポリエチレンという素材のクッション材が軟骨の代わりとして挟んであります。

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