写真1:当院薬剤部スタッフ
病院薬剤師ってどんなことをしているの?日本赤十字の理念に基づき、医療の担い手としての自覚を持ち、その業務に当たる。
薬剤部は、安心で安全な薬物療法を提供し、薬剤師はそれに貢献する。
診療報酬改定からも、病院薬剤師に求められる業務は多様化しています。これまでの調剤・薬品管理・製剤業務をはじめ、病棟では服薬指導を中心とした患者ニーズに応える業務に留まらず、医師・看護師等医療スタッフの業務負担軽減や病院医療安全への貢献といった医療ニーズも大きくなっています。新病院への移転に伴い、そのような医療ニーズに応えるべく、供給業務の効率化や質の向上、それに伴う医療安全の向上を見据えた新規業務の開始など部内外への変革を提案しています。また、薬剤師一人一人の幸福感を満たせるような職場環境の整備も並行し、人的資源の確保とその活用といった組織運営に取り組んでいます。
㈱ユヤマの調剤支援システム・散薬監査システム・全自動散薬分包機・薬袋プリンタ・全自動錠剤分包機を導入し、これらを電子カルテシステムに連動させ調剤業務を行っています。また、薬品搬送は気送管搬送システムにより各病棟へ払い出すことで看護師および看護助手の業務負担の軽減と迅速な対応が可能となり、「正確かつ迅速、調剤から薬物治療を支える」を部署方針として、適正な薬物治療の推進に寄与しています。また、従来の外来院内処方患者に対する服薬指導に留まらず、中央業務の一環として病棟における定期処方配薬車セット業務を開始しました。システムの確立や専門性を活かした中央業務は、業務効率と質の向上ならびに人為的ミスの減少に繋がり、医療安全へ貢献できるものとなりました。(写真2)
㈱ユヤマのピッキングマシーン2台を使用することでより少人数でのオーダーセットと人為的ミスを減少させ、㈱トリオブッピンシステムプランズを用いた電子媒体による請求・供給・管理を実現し、適正な在庫管理による病院経営に寄与する体制を整えました。「物流を制する者は、病院運営を制する」を部署方針として日々、医薬品の適正管理に努めています。(写真3)
当院薬剤部では、製剤課にて入院および外来患者の原則すべてのレジメン監査と室外排気型安全キャビネット(クラスⅡ B2)3台を使用した抗がん剤調製を行っています。調製には、原則すべての抗がん剤において閉鎖式薬物移送システム(ファシール○R)を使用し曝露対策を講じ、この度の新病院移転後よりアイソレーター(クラスⅢ)1台を採用し、さらなる安全性の向上に取り組んでいます。また、無菌製剤業務として、入院患者の高カロリー輸液の調製をはじめ、坐薬や点眼薬などの院内製剤の調製業務も併せて行っています。(写真4)
医薬品情報室では、最新の医薬品情報を収集し、適宜、院内へDIニュースを配信するほか、薬剤部内での勉強会を企画し、薬剤師に対する情報提供や薬事委員会では事務局を担い、院内における医薬品情報の管理を行っています。また、調剤課と協同し電子カルテシステム、㈱ユヤマ部門システムの薬品マスタ管理や、病棟業務に従事する薬剤師と月一回の病棟業務検討会を開き、情報共有に努め、薬事に係る問い合わせ対応などのサポートも担っています。
当院では、平成25年9月より病棟薬剤業務実施加算の算定を開始しました。現在は薬剤管理指導業務による患者指導に留まらず、「おはようからおやすみまで、他職種からの医療ニーズに応える薬剤師の育成」を部署方針として業務を行っています全入院患者に対し、電子カルテシステムを用いた「持参薬報告」(写真5)を行い、看護師の業務負担軽減や医師による誤処方の回避など医療安全に貢献しています。
治験事務局では、治験、臨床研究、製造販売後調査(以下、治験等)など、創薬から育薬までの円滑な医薬品開発の実施支援と品質向上、環境整備を行っています。 治験事務局は治験等を実施するうえで必要な手続きや記録の管理、院内スタッフのみならず治験等に関係する多くの人々の意見調整を主な業務としています。また、治験事務局では治験審査委員会事務局も兼務しており、当院で実施される治験等が科学的かつ倫理的に行われるよう支援しています。
院内感染対策委員会の一員として、主に感染制御チーム(ICT)での活動を行っています。ICT薬剤師として抗菌薬の使用量の管理を始め、指定抗菌薬の届出管理、広域抗菌薬使用患者を対象とした抗菌薬ラウンドを医師、看護師とともに実施しています。また、近隣の病院とともに相互ラウンドや合同カンファレンスを開催し、地域としての感染対策にも参画しています。
現在、がん薬物療法認定薬剤師を中心に外来化学療法室での外来指導やレジメン審査委員会などに参画しています。今後は、がん患者指導管理料3の算定を目指し、体制の確立を検討しています。
当院NST委員会では、年4回の全体会議を行い四半期の活動報告と問題点の抽出を始め、経腸栄養剤の品目の検討や院内向けの勉強会や講演会、セミナーを開催しており、委員の一員として委員会の運営に薬剤師も参画しています。NST回診は、救急医学科と一般診療科に分けてそれぞれ週に1回行い、薬剤師は栄養状態や病態を把握し、輸液栄養の処方設計や薬物の治療介入の必要性、副作用の可能性を薬学的知見からアプローチしています。また、昨年より薬剤師が中心となり、簡易懸濁法を嚥下障害患者の頻度が多い病棟より開始し、今後は院内全体へ普及させる予定です。
緩和ケアチームでは、緩和ケア科の医師、看護師とともに週一回のカンファレンスを行い、各科からのコンサルトに応じています。その中で薬剤師は主疾患や合併症、それに伴う治療薬を把握し、緩和治療をサポートしています。また、院内外の医師を対象とした緩和ケア研修会を定期的に開催し、会の運営に参画しています。
当院では、糖尿病内分泌科の医師、薬剤師・看護師・栄養士・理学療法士・臨床検査技師を中心に糖尿病治療の向上に努めています。年一回、世界糖尿病デーに合わせて他科の診療科医師にも協力をいただき、糖尿病市民公開講座を開催しています。講座では、寸劇を用いて患者さんに分かりやすく病態や治療、合併症などに関する啓もう活動を行っています。
当院では、呼吸器内科の医師と呼吸器内科病棟担当薬剤師が主体になり、院内スタッフと地域の保険薬局薬剤師を対象に各吸入器デバイスの特徴を確認・情報共有する勉強会を年に一回開催しています。また、各デバイスの手技に関するチェックシートを作成し吸入指導の統一化を推進しています。このチェックシートをお薬手帳に貼付し、外来・調剤薬局・入院と継続的に運用することで、患者さんの吸入手技の向上・維持に努めています。
当院の基本方針にも掲げているように、日本赤十字社の使命として災害時の救援活動は薬剤師にも必要であると考え、当院常備救護班には薬剤師の人員を確保し、要請に応じて対応出来る体制を整えています。東日本、熊本での地震災害には当院薬剤師も多数救援に出動しました。これまでの災害医療には、医師と看護師のみが医療職として救援活動にあたっていましたが、薬剤師の帯同で活動の幅が大きく広がるという評価もされています。
当院では現在3期に渡り、学生実習の受け入れを行っています。
調剤から始まり、管理、製剤、病棟等各課の実務的な実習に留まらず、DIのセクションでは薬事情報の収集、伝達手段を学ぶため、実際に製薬メーカーのMRを招きヒアリングを行い、薬事委員会後の薬剤部内勉強会の資料作成を体験学習する機会を設けています。また、多職種協同のチーム医療の一環として回診への参加や細菌検査室の見学など多岐にわたる内容を提供しています。加えて、実習終盤には、各大学より実習担当の教員を招待し、症例報告会を開催し実習成果を報告しています。今後は、アドバンスコースの受け入れや大学研究室との共同研究等も視野に薬学教育への参加も検討しています。
大学名 | 人数 |
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東京薬科大学 | 3名 |
東京理科大学 | 2名 |
慶応義塾大学 | 1名 |
城西大学 | 1名 |
日本薬科大学 | 4名 |
薬物治療の質の向上や安全性の確保、医師の業務負担軽減を目的に院内でのプロトコールに基づく薬物治療管理(Protocol Based Pharmacotherapy Management: 以下、 PBPM)を導入されている施設も多いのではないでしょうか。当院では、さいたま市薬剤師会や与野医師会など周辺地域の関連団体と定期的に薬-薬連携や病診連携の会を開催する中で、PBPMの一環として、▽成分名が同一の銘柄変更(変更不可の処方を除く)▽内用薬の剤形の変更▽内用薬における別規格製剤がある場合の処方規格の変更▽無料で行う半錠、粉砕あるいは混合▽無料で行う一包化▽貼付剤や軟膏類の包装・規格変更▽その他合意事項—の7項目について院外処方せんの調剤時に疑義照会を不要とする合意書をさいたま市薬剤師会と締結し、平成29年4月より運用を開始しました。開始後の近隣薬局へ対するアンケートでは、「問い合わせ業務が減少した」、その時間を「患者対応に当てた」との回答が得られました。本来、この簡素化を実施した経緯には、簡略化された時間を患者への説明等に当て、患者サービスの充実と医療の質を提供することにあったため、この取り組みが地域医療の充実へ寄与する可能性を感じています。今後は、それを使用する近隣薬局の環境に合わせて、簡素化項目や運用の見直し進めていく必要があると考えています。
「患者から検査値に対する質問をされた経験はありませんか?」 昨今、メディアを含め、医療に関する情報は容易に手に入る時代の中で、患者自らが、疾患や薬と検査値の関連性に関心をもち、薬剤師に対してその関与を強く要望している表れと感じます。当院では、今後の地域包括ケア推進において、検査値への対応は必須事項であると考え、近隣薬局への情報開示の一環として、平成30年7月より院外処方せんに一部検査値(白血球数、ヘモグロビン値、血小板数、PT-INR、AST(GOT)、ALT(GPT)、T-Bil、血清クレアチニン値、eGFR、クレアチニンキナーゼ、CRP、血清カリウム値、HbA1c値)の表記印字を開始しました(図2)。検査値を利用した調剤や監査、服薬指導は、患者毎の薬物治療の意図を理解し、近隣薬局における質の高い医療の提供へ繋がることと考えています。開始後の近隣薬局に対するアンケートでは、検査値表記を望む意見が多い一方で、検査値を利用した業務への不安があることも分かりました。近隣薬局からは病院薬剤師と合同での勉強会や症例報告会など連携に繋がるような提案も多く得られ、今後はそのような要望に応えながら、地域の薬物治療の適正化や質の向上に寄与していく必要があると考えています。
図2 当院の院外処方せん例
喘息やCOPDなどの呼吸器疾患では発作・増悪の予防に対する治療が重要であり、アドヒアランスの低下は治療効果に直結します。その治療戦略で軸となる吸入治療薬は、各社デバイスに特徴があり、その違いが高齢者をはじめ患者の理解低下につながる可能性があります。当院では、各デバイス(エアロゾル、レスピマット、エリプタ、吸入用カプセル、タービュヘイラー、スイングヘラー、ディスカス、ジャヌエア、吸入補助器エアロチャンバー)の吸入手技チェックシートを作成し、吸入指導の統一化を推進しています(図1)。このチェックシートをお薬手帳に貼付し、外来・近隣薬局・入院と継続的に運用することで、患者の吸入手技の向上・維持に努め、呼吸器疾患の管理に地域として取り組んでいます。また、呼吸器内科医師と協働し、院内スタッフ、近隣薬局薬剤師、訪問看護ステーションの看護師等を対象に各デバイスの特徴を確認、情報共有する勉強会を年に1回開催しています。
図1 エアゾール製剤の吸引チェックリスト
顔の見える関係構築を開始するにあたり、当院では、近隣薬局薬剤師の研修受け入れを開始しました。現在、期間は1週間と限られたものですが、希望に沿った研修、見学を実施しています。一例ではありますが、がん化学療法の外来治療連携を目的とした研修では、実際のがん診療と治療の経過を入院から外来までを通して、より明確に認識して頂けるような研修を提供しています。これにより経口抗がん剤など外来診療の中で継続される治療に近隣薬局として、より充実した患者介入を可能にする体制づくりに繋がると考えています。これは今後、薬機法改正に伴う近隣薬局の機能分化に際しても、がん拠点病院として近隣薬局と連携し、がん化学療法の継続と充実に寄与できるものと考えています。
学会発表(演題・テーマ・タイトル 等) | 学会名・研究会名等 | 発表年月日 |
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さいたま赤十字病院におけるバンコマイシンの使用実態調査 (日本薬科大学共同研究) |
第139回日本薬学会年会 | 2019.3.20 |
転倒・転落と睡眠導入薬服用患者との関連性 2 (日本薬科大学共同研究) |
日本病院薬剤師会関東ブロック第49回学術大会 | 2019.8.24 |
さいたま市における薬-薬連携に関するアンケート調査―保険薬局薬剤師・病院薬剤師の現状と課題に関する検討― | 第52回日本薬剤師会学術大会 | 2019.10.12 |
医師・看護師との協働 ~業務負担軽減を考慮した薬剤師業務の在り方~ |
第55回日赤医学会総会 | 2019.10.21 |
急性期病院における簡易懸濁法導入に対する評価 ―看護師の職業経験年数から見た考察― |
第22回日本医療薬学会年会 | 2019.11.2 |
抗癌剤監査支援システム“ケモ助”の有効活用 | 第22回日本医療薬学会年会 | 2019.11.2 |
Antimicrobial stewardship teamによる抗菌薬適正使用ラウンドの現状評価と課題 | 第22回日本医療薬学会年会 | 2019.11.2 |
新規構築モデルによるバンコマイシンの有効性・安全性に関するPK/PDパラメータの臨床的解析 (日本薬科大学共同研究) |
第22回日本医療薬学会年会 | 2019.11.2 |
ドセタキセルにおける浮腫発現の実態調査 | 日本臨床腫瘍薬学会 学術大会 | 2020.3.21 |
論文発表・雑誌投稿(演題・テーマ・タイトル 等) | 掲載雑誌名 | 発行年月号 |
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さいたま市における薬・薬連携に関するアンケート調査 ―保険薬局薬剤師の現状と課題に関する検討― |
医療薬学 | 2020,46(3)170-181. |
わかりやすい薬剤情報提供のための写真付服薬指導CD-ROM | じほう | 2020年3月 |
学会発表(演題・テーマ・タイトル 等) | 学会名・研究会名等 | 発表年月日 |
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院外処方せんへの臨床検査値表記について ~調剤薬局薬剤師と病院勤務薬剤師~ |
第24回埼玉県薬剤師会学術大会 | 2018.11.11 |
さいたま市薬剤師会とさいたま赤十字病院の連携 ~院外処方せんへの臨床検査値表記への試み~ |
第51回日本薬剤師会学術大会 | 2018.9.23 |
バンコマイシンの有効性指標(PK-PDパラメータ)の妥当性評価 (日本薬科大学共同研究) |
第35回日本TDM学会 | 2018.5.26 |
使用患者登録を用いたカルバペネム系抗菌薬の届出制による 抗菌薬投与日数(DOT)および緑膿菌感受性率への影響について | 第66回日本化学療法学術集会 | 2018.5.31 |
ICUおよびHCUにおける注射剤配合変化早見表の作成と有用性の評価 | 第28回日本医療薬学会 | 2018.11.22 |
手指衛生に対する薬剤師の意識調査 ~手指消毒剤の使用量比較も含めて~ |
第28回日本医療薬学会 | 2018.11.23 |
薬学部実務実習に対する当院の取り組み ~現状評価と改定モデル・コアカリキュラムへの対応について~ |
第18回埼玉県病院薬剤師会学術大会 | 2018.3.3 |
切迫早産に対するウリナスタチン膣坐剤の有用性と安全性 (日本薬科大学共同研究) |
第28回日本医療薬学会年会 | 2018.11.23 |
ドセタキセルにおける浮腫発現の実態調査 | 第28回日本医療薬学会年会 | 2018.11.23 |
糖尿病市民公開講座への参加者調査にみる皮膚病変への意識に関する検討 (東京薬科大学共同研究) |
日本病院薬剤師会関東ブロック第48回学術大会 | 2018.8.25 |
糖尿病眼合併症の患者意識調査 | 日本薬学会第139回年会 | 2019.3.20 |
腎機能低下患者におけるSGLT2阻害薬の有効性の検討(第2報) (日本薬科大学共同研究) |
日本薬学会第139回年会 | 2019.3.20 |
さいたま赤十字病院におけるVCM使用実態調査 (日本薬科大学共同研究) |
日本薬学会第139年会 | 2018.3.20 |
論文発表・雑誌投稿(演題・テーマ・タイトル 等) | 掲載雑誌名 | 発行年月号 |
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わかりやすい薬剤情報提供のための写真付服薬指導CD-ROM | じほう | 2019年3月 |
「院外処方せんの疑義照会簡素化を試みて」 ~平成29年2月22日付の「薬事日報」の1面記事から1年。その後を語る~ |
さいたま市薬剤師会 会誌 | 2018年4月号 |
糖尿病足病変に白癬症治療から介入する方法の検討 (東京薬科大学共同研究) |
応用薬理 | Vol.95 No.5/6 2018 p133-p138 |
入院時持参薬確認,初回面談を契機としたプレアボイド報告について | 日本病院薬剤師会誌 | Vol.54 No.7 2018 p822-824 |
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